ロードバイクホイールを手組みして分かった、生成AIの実力と限界|「暗黙知」に触れた記録

ロードバイクのホイールを、自分の手で組んでみました。完組ホイールを買えば済む話ではあるのですが、どうしても自分で組んでみたかったのです。
やってみて分かったのは、生成AIの働きが場面によってまるで違う、ということでした。パーツを選び、どこで手に入れるかを決めるまでの準備段階では、生成AIはよく働いてくれました。ところが、実際にスポークを通し、ニップルを締めていく段階になると、ほとんど何の役にも立ちませんでした。
この落差が、今回いちばんの収穫です。子どもたちや企業の方にAIリテラシーをお伝えする立場として、一度は身をもって確かめておきたいテーマでした。その記録を残しておきます。
準備段階では、生成AIがよく働いてくれた
パーツ選定という情報戦
リム、スポーク、ハブ、ニップル。手組みのホイールは、これらを自分で選んで組み合わせます。しかし最初は、何を基準に選べばいいのか、そもそも自分が何を知らないのかさえ分からない状態でした。
ここで生成AIと対話を重ねたところ、かなりの情報を得ることができました。それぞれのパーツがどういう役割を持ち、どこで性格が変わってくるのか。対話しながら少しずつ輪郭が見えてきて、検討の土俵に上がるところまでは、ずいぶん短い時間でたどり着けたと思います。
こうした「まず全体像をつかむ」場面は、生成AIがもっとも得意とするところでしょう。すでに世の中に文章として書かれている知識が、対話の形で手元に集まってくるからです。
「実店舗のほうがいいのでは」という仮説をぶつける
情報が揃ったので、次はパーツ探しです。ところが、目当てのRR411(DT Swiss RR411)というリムが、ネット通販ではなかなか見つかりません。選択肢が、驚くほど少ないのです。
ここで私の頭に浮かんだのは、「実店舗で取り寄せてもらったほうがいいのではないか」という考えでした。そこで、その仮説をそのまま生成AIにぶつけてみました。「RR411を探しているけれど、ネット通販の選択肢が少ない。サイクルショップで頼むほうがいいのか」と。
※最終的にはRR411ではなく、RR421にしました。
返ってきたのは、実店舗での取り扱いを狙ったほうがいい、という答えでした。自分の見立てに裏付けが取れたので、そこから店舗を探しました。隣の市にスポーツサイクルショップがあったので、事前にメールで取り扱いの有無を確認したうえで、足を運びました。
ここは、あとから振り返ると示唆的な場面でした。方向転換を決めたのは、AIではなく私です。AIがしたのは、私の仮説を検証することでした。生成AIは、こちらが立てた仮説の妥当性を確かめる相手としては優秀ですが、「そもそも探す場所が違うのではないか」と気づく役回りまでは引き受けてくれません。AIに聞く前に、自分の頭で仮説を立てられるかどうか。ここが、使いこなせるかどうかの分かれ目だと思います。
プロの店主だけが持っていた「暗黙知」
店頭で話を聞いていると、そこのオーナー店長は、以前はけっこうな量のホイールを手組みしていたそうです。ところが今は、完組ホイールの性能が上がって手組みするメリットがあまりなくなったため、組むことはほとんどなくなった、とのことでした。
それでも、たまに「自分で組みたい」という人が来るのだそうです。まさに私のような人間です。そういう人たちに教えるのも自分の使命だと思ってやっている、という話でした。だからこそ、あれこれと親切に教えてくださったのだと思います。
ひとつ、幸運だったことがあります。事前に生成AIと壁打ちして固めたパーツ構成が、経験豊かな店長から見ても特に問題のないものだった、という点です。これが変なパーツを持ち込んでの相談だったら、下手をすると門前払いを食らっていたかもしれません。準備段階でのAIの働きは、こんなところにも効いていたことになります。
そして、店頭で教えてもらったコツは、ネットで調べても出てこないものばかりでした。生成AIも、そんなことは一言も言いませんでした。
もちろん、見解が一致するところもありました。ホイールの手組みは難しいと言われるけれども、根気さえあれば特に難しくない、誰にでもできる、という点です。少しずつニップルを締め、振れ取りをしながらまた締めていく。特別な技術はいりません。誰でもできるというのは、時間と根気さえあればいける、という意味です。
一方で、どこにも出ていなかったのが、オイルやグリスの扱いでした。どこにどういう油を使うのか。揮発性のオイルがいいこと、グリスは粘度の高いものを使うこと。こうした手法は、ネットにも生成AIの回答にも出てきませんでした。ここを聞けたことが、足を運んだ最大の収穫だったと思っています。

これは、生成AIの限界だと思います。生成AIは、その特性上、すでにデジタルデータのテキストとして世の中に存在するものしか学習できていません。裏を返せば、職人の技術のような「暗黙知」の部分を、生成AIは知らないのです。言葉にされず、書き残されてもいないものは、学習のしようがない。それを目の当たりにした、と言ってもいいと思います。
手を動かす作業に、AIは無力だった
実際に組むにあたっては、店長に教えてもらったことを頭の中でメモしていたので、それを思い出しながら進めました。あとはネット上の誰かのブログやホームページを参考にしつつ、イタリアン組みにしました。
この場面で、生成AIは使えませんでした。生成AIが出力できるのはテキストだけです。こういった手を動かす操作においては、文章で説明されても非常に分かりにくいのです。
ウェブ上の情報にしても、人によってやり方が違うのでしょう。初めにハブへスポークを全部通してからリム側に接続する人もいれば、1本ずつハブとリムを接続していく人もいて、それぞれ言っていることが違います。
私は初めに、ハブへ全部スポークを通してからリムに通そうとしました。ところが、これがうまくいきません。結局、一旦すべて外して1本ずつ入れていく方法に変更しました。これは、やってみないと分からないことでした。

身体感覚を伴う作業について、AIは無力です。
もちろん、あらかじめ情報として持っていれば、知識として得ておくことはできるかもしれません。それによって回り道や遠回りをせず、最短距離で正解にたどり着くこともできるでしょう。ただ、何にしろ生成AIは万能ではない、ということです。
センターが出ない ―― AIとの対話で遠回りした一部始終
仮組みができたので、続いて本締めと振れ取りに入ります。振れ取りについては「少しずつ締めていけばいい」という点で、生成AIであってもプロに聞いても同じような答えが返ってきます。今回、そこについては特に問題がありませんでした。

問題が起きたのは、おおむねテンションが上がって最終段階になったときのことです。縦振れ・横振れともに、ごく小さいところまで追い込めました。ここはOKです。しかしながら、センターが出ていない。これが気になって、ここで少し手間取りました。

結論から言うと、原因は振れ取り機の使い方を私が間違えていたことでした。そのせいでセンターの出し方も間違えていたのですが、組んでいる最中は、そのことに気づいていませんでした。
そこで生成AIに聞きました。「センターが出ていない状況で、右のテンションが強くて左のテンションが弱い場合、スポークをどのように締めたらいいか」。聞き方そのものは、間違っていなかったと思います。
間違っていたのは、状況の伝え方でした。「右側と左側の中央部分が、どちらが高いか」という肝心なところを、私は取り違えてAIに指示してしまったのです。AIからすると「テンションは特に問題ない状況であり、そもそもセンターがずれること自体がありえない状況である」という判断になります。そこから、難しいことをあれこれとさせ始めました。
しばらくAIと格闘しながら状況を改善させようと試みましたが、いつまで経っても改善しません。
そこで最初に戻り、自分の直感に従って考え直してみました。すると、私からAIに対する指示がおかしかった、ということが判明したのです。特にAIを使わず、自分で考えた通りにスポークのテンションを上げていくと、横振れも縦振れもなく、センターもきちんと出ました。
なぜ遠回りしたのか ―― AIは、間違いを強く否定しない
生成AIは、人間の指示を強く否定しないように味付けされているのではないか。今回のことで、そう考えるようになりました。特にChatGPTやGeminiなんかは、その傾向が強いように感じます。
私が使っているのはClaudeです。しかしClaudeであっても、そこまで強く否定されることはありません。私の指示した内容がでたらめであっても、一旦は正しいものとして受け止めたうえで、回答を作るようです。
人間が相手であれば、話は違います。「そこ間違ってるよ」「こうじゃねえのか」「お前の言ってることは間違ってるよ」と、遠慮なく指摘してくれるところでしょう。AIは、そんな言い方をしません。そのため、いつまで経っても間違いに気づかない、ということがあり得ます。
思い返すと、パーツ探しのときも構図は同じでした。あのときは私の仮説がたまたま正しかったので、AIの検証がそのまま裏付けとして働きました。今回は、仮説のほうが間違っていた。ただそれだけの違いで、結果は正反対になったわけです。AIは、こちらが持ち込んだ前提そのものが正しいかどうかまでは、なかなか疑ってくれません。
今回、正解であるセンターが出るまでに、解決に非常に時間がかかりました。これはまさに、このAIの特性に引っかかったせいだと言えます。前提が間違っていても、対話そのものは成立してしまう。これは、AIを仕事で使う場面にもそのまま当てはまる話だと思います。
この経験から見えた、AIリテラシーの本質
生成AIの実力については、年々というか日々進化しているのを感じているところです。しかしながら、まだ実体が絡むもの、手での作業が必要なものについては、うまくいかない事例がまだまだ多い。これが今回の率直な感想です。
理由のひとつは、与えられる情報量に限りがあることです。テキストでしか伝えられないため、写真があったとしても、触覚や嗅覚、聴覚といったものまでは伝えられません。このあたりは、五感を、もっと言えばシックスセンスを使える人間のほうに、まだ分があるのではないかと思います。
もっとも、これは良い・悪いの話ではありません。人間の苦手なところをコンピューターやAIに任せて使えばいいだけの話です。そのうえで、それ以外のところが生きてくる領域、つまり文字情報以外の部分が重要な役割を持つような領域については、AIの回答は助言にとどめ、最後は自ら判断する。この姿勢が大事だと感じた次第です。

AIリテラシーというと、プロンプトの書き方や便利な使い方の話になりがちです。しかし本当に必要なのは、AIに任せる範囲と、自分で判断すべき範囲の線引きではないでしょうか。そしてこの線引きは、机上の説明だけではなかなか身につきません。今回のように、一度うまくいかない経験をして初めて腹に落ちるものだと思っています。
光都ICTクラブでは、この「AIに何を任せ、どこから自分の判断に委ねるか」という視点を軸に、学校・公民館・自治体・企業向けの出前授業(出張プログラミング・AI講座)を行っています。詳しくは学校・団体向け出前授業についてをご覧ください。
