プログラミングにタッチタイピングは必修?
わたしが主催するICTクラブで使っているラズPicoは、microPythonという言語などでプログラミングします。キーボード入力のかわりに、マウスで視覚的に入力したり、音声入力は実用化されていません。一文字ずつキーボードから入力するのが、まだまだ一般的です。
さて、キーボード入力といえば、「タッチタイピングを覚えるべきか」というのがよく議論になります。タッチタイピングとは、ブラインドタッチとも呼ばれ、手元を見ないでキーボード入力を行うテクニックのことです。
本稿では、プログラミングにタッチタイピングが必要なのかどうか、タッチタイピングの習得方法などについて考察します。
Contents
【結論】 まずタッチタイピング習得を目指そう
これからプログラミングを始めるならば、タッチタイピングも合わせて習得を目指してください。タッチタイピングができれば、プログラミングの学習に集中できるからです。
タイピングに時間がかかって、プログラミングの学習に時間をかけられないのは避けたいでしょう。あなたにプログラミングの才能があったとしても、開花させるだけの練習量を確保できないのであれば、せっかくの才能が死んでしまいます。
一方、タイピングに才能は不要です。自転車に乗るのと同じように、身体能力なので、練習すれば実用に耐えうるレベルで誰でも習得できます。
もちろん、タッチタイピングができなくても優れたプログラマーはいます。ただし、それはごく一部の人です。プログラミングを始めた段階では、あなたがごく一部の例外に当てはまるかどうかわかりません。したがって、まずタッチタイピングを習得してください。
タッチタイピングを習得すると得られる効果はこれだ!
タッチタイピングができるようになると、なぜプログラミング学習に集中できるのでしょうか? 前章では、「時間が確保しやすい」と書きました。タッチタイピングで、なぜ「時間が確保しやすくなる」のでしょうか。
本章では、タッチタイピングを習得すると得られる効果について、さらに深く説明します。
正確に入力できる
タッチタイピングを覚えることで実感するのは、正確に入力できることです。なぜ正確に入力できるようになるのかというと、いくつか理由があります。
まず、正確にタイピングする練習を続けることが理由にあげられます。タッチタイピングの練習には、多くの場合タイピングソフトを使います。タイピングソフトでは、正タイプ率がわかります。練習のときには、正タイプ率を「95%以上」を目標に練習します。
また、タッチタイピングができないと、タイピング中に視線が画面とキーボードと資料の3方面を行き来します。資料がない場合でも、視線は画面とキーボードを頻繁に行き来します。自分の入力したキーをリアルタイムで見ていないので、間違って入力しても続けて入力してしまいがちです。
タッチタイピングができると、視線を資料と画面だけの2方面に向けられます。視線移動が少ないため、正確に入力できる文字数が増えます。
実践では、キー入力を間違うと、一度「Backspace」か「Delete」で消さなければなりません。普段意識していない人が多いのですが、実は結構な時間ロスになっています。プログラミング学習において、正確なタイピングは学習に集中する時間を増やすのです。
速く入力できる
次にあげられるのは、速くタイピングできるということです。この効果は自明です。単純にプログラムコードを入力する時間が短くなり、その分多くの学習時間が確保できます。
プログラミング学習において、コードをたくさん書くのは上達の一番の近道です。学生時代に、コピペで演習問題を解いていた同級生がいましたが、試験で軒並み悲惨な点数を取っていました。
わたしは、はずかしながらコピペで演習問題を解けると知らなかったので、すべて手入力していました。そのおかげでわたしは試験で良い点を取れました。それどころか、プログラムが好きになって、さらに専門的なコンピューターの世界に踏み入りました。
かつては、コンピューターでプログラムを実行することが非常に高価でした。そのため、机上で十分に検討したプログラムしかコンピューターで実行させることができませんでした。
しかし、今は違います。プログラムの実行にほとんどコストはかかりません。「とりあえずコードを書いてみて実行してみる」という使い方ができます。もちろんその分たくさん失敗しますが、その失敗が成長のもとです。
速く入力できるということは、プログラミング学習の量をこなせるということです。
楽に入力できる
3つ目は、楽に入力できるということです。「楽に」とは「身体的に楽に入力できる」ということを言います。つまり、疲れにくくなります。
先にも書いたとおり、タッチタイピングができると視線移動が減ります。視線移動すると、意識しなくてもそのたびにピントを合わせています。これが疲労の一因です。
画面だけ見てタイピングできると、視線移動がすくなくなり、その分疲労が減ります。また、資料を見ながらタイピングする場合でも、下の写真のように資料の置き方を工夫すると、ピントを合わせる回数が減ります。つまり疲れにくくなります。
頻繁にキーボードを見ていると、自然にうつむきがちになり、猫背になります。これは結構つらいのです。
タッチタイピングの練習を始めてすぐの頃には、肩が上がって力がはいっているのをよく見かけます。一生懸命に入力している人の後ろに立つと、肩に力がはいっているのがよくわかります。わたしが方に手をおいて、「力抜いて~」というと、だいたい肩が下がると同時にため息がでます。
これは、息が詰まっている状態です。肩が上がって力んでいる状態では、呼吸も浅くなります。脳に酸素が回っていない状態で学習しても学習効果は低いのです。さらに疲れます。
何度も言うように、プログラミング学習はコードを書けば書くほど上達します。疲れなければ、長い時間学習できます。少しタイピングしただけで疲れているようでは、プログラミング学習は進みません。
以上、説明したタッチタイピングの3つの効果が、プログラミングの上達を飛躍的に高めるのです。
【王道】プログラミング学習向けタッチタイピングの練習方法
タッチタイピングを習得するのは、正しい手順を踏めばかんたんです。ただし勝手に自己流で練習して、変なクセをつけると伸び悩む上に、なかなか上達しません。
わたしはこれまで1,000人以上にタッチタイピングを教えてきました。そのなかで、上達しなかったのはただ一人だけです。
20代の彼は、わたしが教えたことを一切守りませんでした。結果3ヶ月たっても、まったく上達しませんでした。
タッチタイピングを習得したいなら、わたしがここに書くことをきっちりと守って練習してください。
ホームポジションの練習
最初に取り組むのは、ホームポジションの練習です。キーボードの「F」と「J」には、よくみると小さな突起がついています。ほかのキーと触って比べるとよくわかります。
ホームポジションは、この突起のあるキーに人差し指をおいて、ほかの指を順にキーにおいたポジションを言います。下の写真のように、両手の指をキーボードに配置します。
親指 | space(スペース) |
左の小指 | A |
左の薬指 | S |
左の中指 | D |
左の人差し指 | F |
右の人差し指 | J |
右の中指 | K |
右の薬指 | L |
右の小指 | ;(セミコロン) |
指をおいた段の上段と下段にもキーがあります。これらを入力するのは、下の図に示すように各指が担当します。
入力速度が120キー/分に届くまでは、ホームポジションから離れてキー入力したら、必ずホームポジションに戻ってください。このとき、キーを入力したときと、ホームポジションに戻るときの手の動きを感じてください。
どのような手の形になっているのか。打ちにくいのか、打ちやすいのか。斜めに動かすのか、縦に動かすのか。
手の形は人それぞれ違います。したがって、感じ方も人それぞれです。しかし、やることは一緒です。キーの距離感を体得してください。
一つ注意点があって、重要なのは「体得」することです。目で手の形や位置を見てはいけません。絶対に手もとを見ずに練習してください。どうしても手元を見てしまうという人は、下の写真のように布などで手もとを隠すのが良い方法です。
手もとを布(タオルなど)で覆う方法は、元SEに教えてもらった方法です。わたしも数多のタイピング講座で受講生に試して効果があった方法です。ぜひお試しを。
この練習の目標は、正タイプ率95%以上です。95%以上をだせるようになったら、正タイプ率を維持したまま入力速度を上げていきます。コンスタントに95%以上の正タイプ率が出せたなら、次の練習に移りましょう。
英文の練習
プログラミング学習のためのタッチタイピングを覚えるなら、先に英文入力を覚えてください。
プログラム言語は、基本的に英単語と記号を用いて書かれます。英語と日本語(ローマ字)では使われるキーや出現頻度が違います。プログラミング学習が目標にあるなら、そのためのタイピング練習として英文を練習してください。
英文タイプが日本語タイプと大きく違う点は、下のとおりです。
- 単語間は、かならず「space(スペース)」を入力する
- 大文字入力に「Shift(シフト)」を使う
- ローマ字入力であまり使わないキー「q」「x」「c」「v」「l」を使う
このあたりを意識しながら練習すると、実際にプログラミングするときにも効果があります。また、ホームポジションの練習と同様に、正タイプ率を95%に維持しつつスピードアップを図ってください。
日本語(ローマ字)の練習
日本で暮らして、日本で学校に行ったり、働いたりするなら、日本語(ローマ字)の入力もタッチタイピングできたほうが有利です。
プログラムを書く仕事についたとしても、ドキュメントを日本語で書くこともたくさんあります。また、趣味でプログラムを書くだけの人も、コメントを日本語で残すこともあるでしょう。ともあれ、英文タイプを優先して、余裕を見ながら日本語タイプも練習してください。
使うキーは英文のほうが多いので、ローマ字入力するならキーを覚え直さなくてもよいのです。したがって、習得にあまり時間はかかりません。
反対に、日本語入力をローマ字でタイピングしていれば、英文入力にあまり手こずることはありません。
練習方法は、これまで同様、正タイプ率95%を維持してスピードアップを図ってください。
写経をしよう
ある程度タッチタイピングできるようになったら、あとは実践です。おすすめなのが「写経」です。写経と言っても般若心経を入力するわけではありません。誰かが書いたコードを、一字一字入力します。
例えば、下の図は私が日経ソフトウエアという雑誌の記事を手入力したものです。
雑誌に限らず、プログラミングの書籍は数多くあります。プログラミング書籍は眺めているだけでは上達しません。実際に、書籍の内容を入力して、動かしてこそ上達するのです。
すなわち「写経」は、プログラミングとタイピングが同時に上達する練習方法です。ここまで到達したら、あとは思い切りプログラミングコードを書くだけです。
プログラムで思うままに、ラズPicoやコンピューターを操る快感を味わってください。